【相続税 納付の解説】期限・方法・誰が払う?不安を解消し、スムーズな納税を実現する対処法

~税理士のつぶやき~

相続が発生し相続税の申告書を提出する人で、相続税の納税が必要な人の納付期限は、申告期限と同じ、「相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内」です。この納付期限を過ぎてしまうと、延滞税の発生というデメリットを生ずる場合があります。
財産を取得した人の納付する税額は、亡くなった人の相続税額を、財産を取得した人それぞれが取得した財産の価額に応じて計算された個々の税額となり、原則として税務署や金融機関の窓口において、納付書を使用した現金一括納付となります。なお、現金一括納付が困難の場合には、延納や物納という制度もありますが、要件も厳しく手続きも複雑です。
また、相続税の納税については、財産を取得した人が個々の税額を納付することになりますが、他の財産を取得した人に未納付がある場合には、連帯納付義務という規定により、他の財産取得者の税額を代わりに納付する義務を負う場合もあります。
申告・納付にも「10か月以内」の期限がありますので注意が必要です。
相続に関して不安のある方は、申告期限の余裕がある時期に専門家へ相談することをおすすめします。そこで、ご自身のケースに合った最適な対処法を見つけ申告手続きを完了することが安心です。
今回は相続税の納付について、申告期限と納付期限の基本ルール、納付方法、納税義務者と支払方法、納付に困ったときの対処方法についてまとめてみました。
この記事が、相続に関するお悩みを解決する一助となれば幸いです。

①相続税の申告期限と納付期限の基本ルールを知っておこう

相続税の納付において、最も重要となるのが「期限」です。
相続税の申告と納付の期限は、原則として「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内」と定められています。
この10カ月という期限は、遺産分割協議や財産評価など、多くの手続きを進める必要があるため、あっという間に過ぎてしまうことが多いです。

申告期限と納付期限は同日であり、この期限を過ぎてしまうと、デメリットが生じます。主なデメリットは以下の通りです。

  1. 延滞税の発生:納付期限の翌日から納付が完了するまでの日数に応じて、利息に相当する延滞税が課されます。支払いが遅れるほど、税の負担が重くなります。
  2. 加算税の可能性:申告期限までに申告しなかった場合(無申告)や、申告した税額が少なかった場合(過少申告)には、別途「無申告加算税」や「過少申告加算税」といったペナルティが課せられます。
  3. 特例の不適用:配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例など、相続税の支払い額を最大限に抑えるための特例は、原則として期限内申告が要件とされています。特例が適用できないと、納付すべき税額が大幅に増える可能性があります。

このようなデメリットを避けるためにも、相続が発生したらすぐに準備を開始し、税理士などの専門家へ相談することがおすすめです。

②相続税の納付方法|一括納付・延納・他の支払い手段を解説

相続税の納付方法は、原則として現金による一括納付です。納付は、税務署や金融機関(銀行、郵便局など)の窓口で、納付書を使用して行います。最近では、国税庁のページからクレジットカード納付やダイレクト納付といった他の支払い手段も利用可能となっていますが、それぞれに上限額や手数料、納付までの時間差などの注意点があります。

しかし、相続財産に不動産などが多く、手元の現金だけでは一括での納付が困難なケースも多いでしょう。その際の対処法として、「延納」と「物納」という制度があります。

  1. 延納(分割払い)

延納とは、相続税を一括で納付することが難しい場合に、最大20年間までの分割払いが認められる制度です。

  • 要件:相続税額が10万円を超えること、金銭での納付を困難とする事由があること、担保を提供すること(延納額によっては担保不要)などが必要です。
  • 注意点:延納期間中は利子税が課されます。また、申告期限までに税務署へ申請する必要があります。
  1. 物納(物による納税)

延納によっても相続税を納付することが困難な場合に、相続によって取得した不動産や株式などの財産で納税ができる、相続税特有の方法です。

  • 要件:延納でも困難であること、特定の財産(物納に適格な財産)であること、申告期限までに申請することなど、非常に厳格な要件が設けられています。

延納や物納は、その手続きが複雑で要件も厳しいため、専門的な知識が必要です。検討する際は、必ず税理士に相談し、適切な対処法を依頼することがおすすめです。

③相続税は誰が払う?納税義務者と支払いの流れ

相続税は、誰が払うのでしょうか?結論から言うと、相続税の納税義務者は、「亡くなった方(被相続人)から財産を相続や遺贈によって取得した人すべて」です。

  1. 各自の支払い義務

相続税は、相続人全員で一括して払うものではなく、財産を取得した人それぞれが、取得した財産の価額に応じて計算された自身の相続税額を支払うのが大原則です。

  1. 連帯納付義務

しかし、相続税には「連帯納付義務」というルールがあります。これは、もし相続人のうち誰か一人でも納付期限までに相続税を払うことができなかった場合、他の相続人全員が、未納付の税額を代わりに払う義務を負うというものです。

連帯納付義務があるため、相続人同士で協力してスムーズに納付手続きを進めることが非常に重要です。

  1. 支払いの流れ
  1. 申告書の提出:期限内に相続税の申告書を所轄の税務署へ提出します。
  2. 納付書の入手:税務署の窓口で、納付書を入手します。(税務署からは原則送付されません)
  3. 納付:納付書に必要事項を記載し、税務署や金融機関の窓口で自己の税額を納付します。

納付の際には、相続人一人ひとりが個別に納付書を作成して支払う必要があります。誰か一人が全員分を一括して払うと、他の相続人への贈与と見なされ、贈与税が課税される可能性があるため注意が必要です。

④納付に困ったときの対処法|金融機関・税理士への依頼や相談のすすめ

相続税の支払いを前にして、「手持ちの現金が足りない」「遺産分割がまとまらない」など、納付に困るケースは少なくありません。そうした時の具体的な対処法と、専門家への相談・依頼のおすすめについて解説します。

  1. 納税資金不足への対処法
  • 金融機関からの借り入れ:相続税の納税資金専用のローンを提供している金融機関もあります。延納の利子税と比較して金利が有利な場合もあるため、検討する価値があります。
  • 遺産の売却:不動産などの換金性の高い財産を納付期限までに売却し、現金を準備します。売却に時間がかかる場合もあるため、早めの対処法が必要です。
  • 延納・物納の検討:前述の通り、要件は厳しいですが、支払いが困難な場合の最大の対処法です。
  1. 遺産分割が申告の期限に間に合わない場合の対処法

相続税の申告・納付期限は10カ月であり、遺産分割協議がまとまらないからといって期限が延長されることは原則ありません。

  • 法定相続分での申告:期限までに遺産分割ができない場合は、民法に定める法定相続分で相続したと仮定して申告・納付を行います。この方法で申告した場合でも、配偶者の税額軽減などの特例は原則使えませんが、一旦期限内申告をすることで、無申告加算税を回避できます。
  • 申告期限後3年以内の分割見込書:この書類を提出することで、分割がまとまった後に特例を適用するための手続き(修正申告または更正の請求)を行うことが可能になります。
  1. 税理士への依頼・相談のすすめ

相続税の申告・納付は、複雑な税法と期限が絡むため、専門的な知識が不可欠です。税理士に依頼することで、以下のメリットが得られます。

  • 正確な申告と節税:相続税専門の税理士は、特例や控除を最大限に活用し、適正かつ税負担の少ない申告をサポートします。
  • 納付資金対策の提案:延納・物納の検討や、金融機関への借り入れ相談へのアドバイスなど、納税に関する総合的な対処法を提案します。
  • 申告・納付手続きの代行:煩雑な書類作成や手続きを依頼することで、相続人の負担を大幅に軽減できます。

相続が始まったら、今すぐに税理士へ相談し、期限を意識した計画的な相続手続きを進めることがおすすめです。

⑤相続税の納税に関するよくある質問(FAQ)

このカテゴリでは、「相続税の納付」に関してよくある質問とその対処法をまとめました。

 

よくある質問 (Q) 解説と対処法 (A)
相続税の納付は、どこでできますか? A. 所轄の税務署の窓口、金融機関(銀行、信用金庫、郵便局等)の窓口で納付できます。他に、クレジットカード納付やダイレクト納付(事前届出が必要)といった方法もあります。
納付期限が土日祝日の場合、期限はどうなりますか? A. 納付期限の日が土日祝日および年末年始(12月29日~1月3日)にあたる場合、その翌日の平日が期限となります。
相続税を払う際の納付書は、どこで手に入りますか? A. 納付書は税務署でもらうことができます。原則として、税務署からは送付されません。相続人ごとに作成し支払います。
相続を放棄した場合、相続税を払う義務はありますか? A. 家庭裁判所で相続放棄が受理されれば、初めから相続人ではなかったとみなされるため、原則として相続税の納税義務は発生しません。
延納や物納の専門的な相談はどこに依頼すべきですか? A. 延納や物納の複雑な要件や手続きに詳しい、相続税専門の税理士に依頼するのがおすすめです。最大限のメリットを得るための対処法を提案してくれます。

⑥まとめ

相続税の納付は、「相続開始を知った日の翌日から10カ月以内」という厳格な期限が設けられた、相続手続きの最大の山場の一つです。原則は現金による一括納付ですが、支払いが困難な場合の対処法として「延納」や「物納」があり、税理士への専門的な相談・依頼が不可欠となります。
相続税は、財産を取得した誰もが納税義務者であり、他の相続人の未納付分を払う「連帯納付義務」もあります。そのため、相続人全員が期限を意識し、協力して納税準備を進めることが重要です。

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